トレッド面にある沢山の溝や切り込み。よく見てみると、タイヤによって様々な模様をしているのがわかると思います。
実はこの模様はタイヤパターンと呼び、そのタイヤ性能を引き出す重要な構成要素でもあるのです。
また、このタイヤパターンには回転方向が決まっているものや、イン・アウト側で異なる性質を持つものも存在します。
今回は、タイヤパターンの役割や種類、回転方向指示やイン・アウト指示のあるタイヤの特徴を詳しくご紹介していきます。
もくじ
タイヤパターンの役割
冒頭でもご紹介したように、タイヤパターンはタイヤの性能に大きな影響を与える重要な構成要素です。
タイヤパターンは具体的に次のような役割を持ちます。
- 駆動力・制動力の増加・・・タイヤのグリップを増加させる
- ウエット時の駆動力・制動力の確保・・・雨天時の路面にある水を効率よく排出する
- 操縦安定性や放熱性の向上・・・タイヤを転がりやすくし、快適性や耐摩耗性などに繋げる
- デザインの向上・・・タイヤ全体の見た目を格好良くする
このように、タイヤパターンは走行性能だけではなく見た目にも関わる重要な部品です。
ただし、闇雲にタイヤに溝を増やせば良いというわけではありません。
例えば溝面積を多くすると雪上性能やハイドロプレーニング現象の発生は抑制しやすくなるものの、パターンノイズは大きくなる傾向があります。
このように、それぞれ相反する性質が出てくるため、各メーカーは開発するタイヤのコンセプトに合わせて様々なタイヤパターンを検証しながら開発を進めています。
タイヤパターン(トレッドパターン)の種類
- 対称パターン(点対称パターン)・・・均一な形状をしている
- 方向性パターン・・・溝に方向性を持たせている(排水性やブロック剛性の向上など)
- 非対称パターン・・・イン側とアウト側で異なる形状をしている(総合的な性能向上)
タイヤパターンは、左右が対称になっている対称パターン(点対称パターン)が基本となっていますが、中には回転方向の指定がある方向性パターンや、イン・アウト側で異なる非対称パターンもあります。
もともと市販タイヤが普及し始めた当初は対称パターンばかりでした。
しかし時代が進むにつれて車自体の性能が上がると、それに合わせるかのようにタイヤに求める性能も高くなっていきます。
例えば、
- コンフォート性能を持たせつつ、ミニバン特有のふらつきを抑えたい
- 安定したウエット性能を持たせつつ、高いドライグリップも欲しい
- 転がり抵抗を抑え省燃費性能を確保しつつ、ウェットグリップ性能を高めたい
などのように、相反する性能を両立させなければいけないことも出てきます。
すると、従来の対称パターン(点対称パターン)だけでは対応できなくなります。
そこで新しく、いくつかの特性を合わせられる非対称パターンや方向性パターンのタイヤが開発されるようになったのです。
特に最近はタイヤにオールラウンドな性能が求められることも多いため、非対称パターンのタイヤが増えてきました。
そして、これまで相反していた性能を両立するのが必然的になったため、それに対応するようにラベリング制度は「転がり抵抗性能」と「ウェットグリップ性能」の2つのグレードで示されることになりました。
それでは次に、方向性タイヤと非対称タイヤの特徴をもう少し詳しく見ていきましょう。
回転方向指示あり(方向性パターン)
方向性タイヤは溝に方向性を持たせているため、回転方向の指示があります。
方向性タイヤは、スポーツ系のタイヤに多く採用されています。
もともとスポーツ系のタイヤは排水機能が低く、ウエット走行が苦手な傾向があります。そこで、排水機能が低い分、パターンで効率良く排水できるように、溝に方向性を持たせるようになったのです。
また、ウエット性能でのメリットだけでなく、グリップやコントロール性などのドライ性能も考慮して開発されているのもポイントです。
回転方向指示があるタイヤは、サイドウォールに矢印と「ROTATON」の文字があり、その向きで回転するよう組む必要があります。
メリット
- ドライ・ウエット性能を両立
- ドレスアップ効果もある
排水性を考慮したトレッドパターンにできるのはもちろん、遠心力がかかった際にトレッドがより地面と密着するような構造とすることで、ドライ・ウエット両方の性能を高レベルで実現できます。
また、スポーティな見た目をしているため、ドレスアップ効果もあります。
デメリット
デメリットは、ローテーションの際に注意が必要ということです。
- ホイールからタイヤを外さない場合・・・前後でしかローテーションできない
- ホイールからタイヤを外す場合・・・タイヤを逆履き(裏履き)すればどこでも装着可能
回転方向指示があるタイヤをホイールに付けたままローテーションする場合、左右で付け替えると回転方向が逆になるため、前後で付け替えることしかできません。
ただし、スポーツカーや高級車は前後でホイールのサイズが異なることもあるため、その場合はホイールからタイヤを外して逆履き(裏履き)する必要があります。
このように、回転方向指示のあるタイヤをローテーションする時は、ローテーションの仕方によって制約が生まれる可能性があります。
イン・アウト指示あり(非対称タイヤ)
非対称タイヤはイン側とアウト側でタイヤの強度やパターンが異なります。
非対称タイヤが登場した当初は、ミニバン用のタイヤに多く採用されていました。なぜならミニバンは車重が重く重心も高いため、タイヤが偏摩耗しやすい特徴があるからです。
快適性を維持しつつ、偏摩耗やふらつきも抑制するという性能を両立させるには、これまでの方向性パターンのタイヤでは賄いきれません。
そこで、2種類のタイヤの特徴を採用できる非対称タイヤが開発されたのです。
また、現在はミニバンのみならず全てのカテゴリーのタイヤにおいて非対称タイヤが増えてきました。
例えばスポーツ系のタイヤは、イン側はウェット路面での排水性を重視し、アウト側はドライ路面のグリップを重視した作りとされているものなどがあります。
ちなみにイン・アウト指示ありの非対称タイヤは、
- イン側・・・INSIDE
- アウト側・・・OUTSIDE
とそれぞれ刻印されています。
メリット
- 車の特性に合ったタイヤを作りやすい
- 自由にローテーションが可能
イン側とアウト側で性能の役割が分かれているため、様々な特性を持つタイヤを作ることができます。
また、ホイールに装着したまま自由にローテーションできるのも大きなメリットです。
デメリット
非対称タイヤは片側の偏摩耗が進んだからと言って逆履き(裏履き)をすると、イン・アウトが反対になります。
そのため、内減りや外減りが進むと、ローテーションではなくタイヤ交換を行う必要があります。
過去には非対称と方向性パターンが組み合わさったタイヤも
ヨコハマタイヤのアドバンネオバの前モデルAD05・06は、非対称・方向性パターンを採用していました。
この場合、サイドウォールに刻印されたアウト側指示のマークを外側にしつつ、ローテーションマークを回転方向に合わせる必要があります。
タイヤは左右で異なることになるので、左側用がAD05で、右側がAD06として販売されていました。
ちなみに全てのタイヤを交換する場合、左右2本ずつ購入することになります。
回転方向指示やイン・アウト指示を無視して装着すると
もし回転方向指示やイン・アウト指示を無視して装着しても、決して走れなくなるわけではありません。
しかし、タイヤの本来持つ性能を十分に発揮できないため、安全上好ましい状態ではありません。
例えば、ウエット性能が高いタイヤを回転方向指示と反対に装着すると、トレッドの溝が上手く路面の水を掻き出せなくなるため、雨天時にハイドロプレーニングが起こりやすくなります。
また、アウト側の剛性が高いミニバン専用タイヤをイン・アウト反対に装着すると、剛性の高い部分が内側になることで、逆にふらつきやすくなることもあります。
ほかにも、タイヤパターンで静粛性を向上させているタイヤを反対にすることで、パターンノイズが増加することもあります。
このように、タイヤ本来の性能を引き出せないどころか、性能低下にも繋がりますので、回転方向やイン・アウト指示は指定された通りに装着しましょう。
まとめ
タイヤのパターンは性能を最大限に引き出すためにメーカーが考え出したもので、ブランドや種類によって様々な特徴があります。
気になるタイヤのパターンについて具体的に知りたい方は、その商品の公式サイトにアクセスしてみると良いかもしれません。
また、近年車の性能が向上しつつあるため、非対称パターンや方向性パターンのタイヤも増えてきました。
今回ご紹介したメリットやデメリットをしっかり把握し、タイヤ選びにお役立ていただければと思います。