車体からホイールを脱着する際に必ず行うのがナットの締め込み作業。
ホイールナットは非常に小さな部品をしていますが、ホイールを車体に固定するための重要な部品です。
もし走行中にホイールナットが緩むと、命に関わる重大な事故にも繋がるため、定められた締め付けトルクで管理する必要があります。
当店でも、ホイールナットの締め込み作業は特に慎重に行っています。
しかし、ホイールナットはどんなにしっかりと締め付けても、時間と共に緩んでくることもあります。
当然ながら、ナットが緩んだまま走行を続けると、ホイールがガタ付き始め、次第にハンドルが取られたり、ホイールが脱輪したりする危険があります。
そこで大切なのが、定期的なホイールナットの増し締めです。
本記事では、プロのタイヤ専門店の観点で、ホイールナットの正しい点検方法や、増し締めの方法をご紹介していきます。
愛車とのカーライフを安全に長く続けるためにも、ぜひご一読ください。
もくじ
タイヤ脱輪事故の現状
大型車のデータになりますが、国土交通省によると、タイヤの脱輪事故は2022年(令和4年)の1年間で140件も発生しています。
また、タイヤの脱輪事故は年々増え続けており、乗用車に関しても同様です。

車輪の脱落事故が最も多いのは冬季(11月〜3月)にかけてで、特にスタッドレスタイヤへの交換後1ヶ月以内が危険とされています。
JAFさんの情報によると、雪警報が出た際に慌ててタイヤを交換し、ナットを締め忘れてしまったり、正しい順番やトルクで締められていなかったりと、ヒューマンエラーによる脱落事故が多いそうです。
このような事故を防ぐには、あらかじめ余裕をもってスタッドレスタイヤに交換したり、専門知識を持ったお店に依頼したりするなどの対策が必要です。
しかし、それだけでは事故を完全に防ぐことはできません。
どうしてナットは定期的な増し締めが必要なの?
ホイールナットが緩む要因は、ヒューマンエラー以外にも、次のようなものがございます。
- 「初期なじみ」が起きることで緩む
- ボルト・ナットとしての性質上緩む
1.「初期なじみ」が起きることで緩む
まず、ナットは「初期なじみ」によって徐々に緩んでくることがあります。
「初期なじみ」とは、ハブやホイール・ナットの接合面にある細かな凹凸や塗装などが徐々に「なじむ」ことによってできるわずかな隙間のことを言います。
この隙間ができるせいでナットの締め付ける力が弱まり、放っておくと徐々にナットが緩み始めてきます。
2.ボルト・ナットの性質上緩む
ボルトやナットは金属特有の性質上緩んでくることもあります。
- ボルト自体の伸び
- ホイールとの接地面の摩耗、陥没
- 走行中の振動や衝撃
ボルト自体が温度差によって伸び縮みしたり、徐々に座面が摩耗して陥没したりすれば、ナットの持つ本来の締結力が弱まっていきます。
そこに走行中の振動や衝撃が加わると、ナットは徐々に緩み始めてきます。
ナットの増し締めの効果
トラックなどの大型車であれば、ダブルナットや割りピン、緩み防止用接着剤などの緩み止め対策が施されることもあります。
しかし、乗用車用のホイールは大型車と比べて脱着の機会が多いため、メンテナンス性の観点からそのような対策が行われていません。※一部の車両には緩み止め対策がされていることもあります。
そのため、定期的にホイールナットの増し締めを行えば、タイヤの脱輪事故を防ぎ、安全運転に繋げることができるのです。
ホイールナットの増し締めはいつ行う?
ホイールナットを増し締めするタイミングは、
- ナット装着後50〜100km走行後
- 空気圧チェックのタイミング(1ヵ月に1度)
となります。
1.ナット装着後50〜100km走行後
まず、ホイールナットの増し締めは、ホイールを取り付けてから50〜100km走行後を目安に、できるだけ早い時期にするのが良いとされています。参考:一般社団法人 日本自動車工業会
ちなみにこれは「初期なじみ」の対策です。
「初期なじみ」と聞くと、新車の状態や、新品のホイール・ナットを取り付けた時と思うかもしれません。
しかし、本来の「初期なじみ」は、ハブやホイール、ホイールとナットの接合面が「なじむ」ことによって締付け力が低下していく現象のことを言います。
したがって、スタッドレスタイヤへの交換や、定期点検、車検でのホイール脱着など、ナットを締め込む作業を行った時点で必ず「初期なじみ」は起こってしまいます。
そのため、ホイールを脱着したら、必ず50〜100km走行後に増し締めを行う必要があるのです。
2.空気圧チェックのタイミング(1ヵ月に1度)
最近の乗用車用のホイールナットは精度が高くなってきているため、「初期なじみ」対策の増し締めさえしっかりと行えば、その後にナットが緩んでくることはほとんどありません。
しかし、先ほどご紹介したように、ボルト・ナットの持つ金属の性質がある限り、自然にナットが緩んでくる可能性をゼロにすることはできません。
ちなみに1年毎に実施する「定期点検」にも、ナットの緩みに対しての点検項目があります。(自家用車の場合)
ただ、さすがに1年間何も点検をせずにいるのは安全上心許ないです。
そのため当店では、できれば空気圧をチェックするタイミング(当店では1ヵ月に1度のチェックを推奨しています)に、ナットの緩みも一緒に確認することをおすすめしています。
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また、どんなにきちんと増し締めを行っても、度々緩んでくることがあります。
その場合はナットやホイール、ハブに問題がある可能性がありますので、すぐに最寄りの修理業者やタイヤショップに相談してください。
正しいナットの増し締め方法
ホイールナットは、ただ闇雲にきつく締め込めば良いというわけではありません。
それぞれの車両に定められた締め付けトルクで、正しい順番に締め込む必要があります。
ナットの締め付けトルクは、お車の取扱説明書や、サービスマニュアルに記載されています。※締め付けトルクが確認できない場合は、ディーラーやタイヤ販売店にお問い合わせください。
また、増し締めを行う際にナットを目視で確認し、錆や汚れの付着や頭部(ソケットやレンチがかかる部分)が潰れていたら、すぐに新品のナットに交換しましょう。
もちろん交換すれば「初期なじみ」が発生するため、50〜100km走行後に再び増し締めを行う必要があります。
増し締め作業に必要なもの
ホイールナットの増し締めには、
- トルクレンチ
- ソケット
が必要です。
お車によっては車載工具にホイールレンチが搭載されていますが、規定トルクに設定する機構が付いていません。別途でトルクレンチを購入する必要が出てきます。
また、ナットのサイズのソケットもご用意する必要があります。

ナットを締め込む順番
必要なものが揃ったら、まずはお車を安全なところに移動させ、ギアをパーキング(P)に入れます。
次にトルクレンチを規定トルクに設定し、ホイールナットを締め込んでいきます。
ホイールナットを締め付ける順番は、次のようになります。
- 4穴・・・対角線に締め込む
- 5穴・・・星型に締め込む
ナット穴の数によって若干の違いがありますが、対角線を意識して締め込んでいけば問題ありません。
全てのナットを締めたら、作業完了です。

安心してカーライフを送るためにも定期的にホイールナットの増し締めを行いましょう
乗用車用のホイールナットの増し締めについてご紹介しました。
ホイールナットは金属部品である以上、時間と共に緩んでしまう可能性があります。しかし、増し締め作業は道具さえあれば簡単に行えます。
ご自身でやってみようとお考えの方は、今回ご紹介した方法をぜひ参考にして見てください。
また、少しでもご自身で増し締めを行うのが不安だと感じたら、当店までご相談下さい。
タイヤ交換のプロフェッショナルであるスタッフが、適切なホイールナットの増し締め方法をお伝えいたします。
もちろん増し締めや点検作業自体も承っておりますので、お気軽にご相談ください。