近年大型車のタイヤの脱輪事故件数は増加傾向にあります。
一般車と比べて走行距離が多いトラックは、タイヤの脱輪リスクが高く、タイヤ自体も大きくて重いため、外れた時の危険度も桁違いです。
しかし、ホイールナットは金属の部品であるため、どうしても自然に緩んでくることもあります。
そこで大切なのが、ホイールナットの定期的な増し締めです。
本記事では、トラックなどの大型車のホイールナットの増し締めの必要性や、正しい手順などをご紹介していきます。ぜひご参考ください。
もくじ
大型車のタイヤ脱輪事故は右肩上がりに増加している
国土交通省のデータによると、大型車の車輪脱落事故件数は、2002年(平成14年)4月〜2022年(令和4年)3月末までの20年間で1188件も発生しているそうです。

また、タイヤの脱落事故は冬季(11月〜3月)にかけて最も多くなる傾向があります。
これは冬季はスタッドレスタイヤへの交換が必要になり、ホイールナットを緩める機会が圧倒的に増えるからです。
ちなみにタイヤの脱輪事故の多くは、スタッドレスタイヤへの交換後1ヶ月以内と言われてます。
ホイールナットが緩んでくる原因
ホイールナットが緩んでくる原因には、ヒューマンエラーによるものが多くなっています。
しかしそれ以外にも、ボルトとナットの性質上緩んでくることもあります。
- 「初期なじみ」によって緩む
- ボルト・ナットとしての性質上緩む
順に詳しく見ていきましょう。
1.「初期なじみ」によって緩む
ホイールナットは決められたトルクできっちり締め込んだとしても、必ず「初期なじみ」が起こります。
「初期なじみ」とは、ハブやホイール・ナットの接合面にある細かな凹凸や塗装などが徐々に「なじむ」ことによって、わずかな隙間が生まれることを言います。
隙間が生まれるとナットの締め付け力が弱まり、放っておくと徐々に緩み始めてきます。
2.ボルト・ナットの性質上緩む
ボルトやナットは金属部品であるため、「初期なじみ」以外にも、以下の原因で緩んでくることがあります。
- ボルト自体の伸び
- ホイールとの接地面の摩耗、陥没
- 走行中の振動や衝撃
ナットの増し締めの効果
決められたトルクできちんと増し締めを行えば、あらかじめタイヤの脱輪事故を予防することができます。
トラックの場合、緩み対策としてダブルナットや割りピン、緩み防止用接着剤などがあります。
しかし、すべての車両にこのような対策がされているわけではありませんので、定期的な増し締めによって緩みを予防する必要があります。
また、航空機や列車、橋や建物など、ボルト・ナットが使われたあらゆるものが定期的な点検・増し締めによって管理されています。
もちろんトラックのホイールナットも安全に関わる重要な保安部品。同様に増し締めを行う必要があります。
ホイールナットの増し締めはいつ行う?
ホイールナットの緩みは、気付かないうちに徐々に緩んでくることがほとんどです。
また、初期の緩みを目視で確認することは極めて難しいでしょう。
そのため、ホイールナットの増し締めは、以下を目安に行うことをおすすめします。
- ナット装着後50〜100km走行後
- 3ヵ月に1度
①ナット装着後50〜100km走行後
まず、ホイールを取り付けてから50〜100km走行後を目安に、できるだけ早い時期に行いましょう。これは「初期なじみ」の対策となります。参考:一般社団法人 日本自動車工業会
「初期なじみ」を言葉尻だけで捉えると、新車の状態や、新品のホイール・ナットを取り付けた時という意味に思うかもしれません。
しかし、本来はホイールとナットの接合面が「なじむ」ことによって起きる現象のことを言います。
したがって、タイヤ交換でホイールの脱着を行った時点で、そこから50〜100km走行後を目安に増し締めを行う必要があるのです。
②3ヵ月に1度
JIS規格(インナー・アウターナットを使った方法)のホイールナットは、「初期なじみ」対策の増し締めをしっかり行えば、その後にナットが緩んでくる可能性は極めて低くなります。
とはいえ、ボルト・ナットの性質上、緩んでくる可能性をゼロにすることはできません。
そこで、一般的にはトラックなどの大型の運搬車両は、3ヵ月毎の定期点検が義務付けられています。
このほかに、日常点検として1日1回、運行の前に目視による外観の点検と、点検ハンマーによる点検も義務付けられています。
そのため、定期点検のタイミングである、3ヶ月に1回の増し締めを推奨します。
また、ナットの増し締めを行っても度々ナットが緩むことがあります。
その場合は、ホイールやハブに問題がある可能性があります。もし違和感を感じたら、すぐに最寄りの修理業者やタイヤショップに相談してください。
正しいナットの増し締め方法
ホイールは複数のホイールナットによって均等に締め込まれているため、増し締めはその車両に定められている締め付けトルクで、正しい順番で行う必要があります。
締め付けトルクは備え付けの取扱説明書やサービスマニュアルに記載されていますし、ディーラーやタイヤ販売店でお調べすることもできます。
また、増し締め時は、ホイールナットを目視で確認し、錆や汚れが付着していたり、頭部(ソケットやレンチがかかる部分)が潰れていたりしていたら、新品のナットへの交換をおすすめします。
その際も、50〜100km走行した後に、「初期なじみ」対策として再度増し締めを行うようにしてください。
一般的にトラックは1本のスタッドボルトに対して1つのナットで締め付けるタイプと、2つのナットで締め付けるタイプがあります。
それぞれの方式で若干手順が異なりますので、こちらもそれぞれご紹介していきます。
1つのナットで締め付ける方式(フロントタイヤ及びISO方式のリア)

乗用車のように1本のスタッドボルトに対し、1つのナットで締め付ける方式です。
この場合はトルクレンチを使って、規定のトルクで対角線に締め込んでいけば問題ありません。
ただし、年式によって左車輪のみ左ねじが採用されていることもあります。
誤って緩めてしまうことのないように、回転方向を十分に確認してから増し締めを行うようにしましょう。(左車輪のネジ先端に「R」マークが付いていたら右ねじです)
2つのナット(インナー、アウターナット)で締め付ける方式

タブルナットと言われる方式で、インナーナットとアウターナットの2つで締結されています。
ダブルナットの場合、締め込む順番が少し特殊です。
まず、1個おきに飛んだ半数のボルトに付いているアウターナットを緩めます。※残りの半数のアウターナットは緩めないでください。
次にインナーナット側をトルクレンチで締め付けていきます。

そして、先ほど緩めたアウターナットもトルクレンチで規定トルクに締め込んでいきます。
これで半数のナットの増し締めが完了しました。
続いて残りのナットも同様に、アウターナットを緩めてからインナーナットの増し締めを行います。
最後に緩めたアウターナットも締め込めば完了です。
増し締めの順番は、乗用車同様に対角線を意識します。
例えば8穴の場合、初めに対角線にある4本のナットの増し締めを行ってから、残りの4本のナットも同様に進めていきます。

定期的なホイールナットの増し締めでさらに安全な運搬作業を
トラックのホイールナットの増し締めについてご紹介いたしました。
ホイールナットは金属部品であるため、どうしても時間と共に緩んでしまう可能性があります。
しかしホイールナットの増し締めは、手順さえ覚えてしまえば作業自体はそれほど難しくはありません。
ただし、大型車であるトラックのホイールナットは非常に大きなトルクで締め付けられているため、増し締めにはかなりの力が必要。
乗用車用のトルクレンチでは対応できないことが多く、大型のインパクトやトルクレンチが必要になりますし、安全上の問題も出てきます。
そのため、トラックのホイールナットの増し締めは、できれば整備工場やタイヤの専門店にご依頼いただくことをおすすめします。
もちろん当店でもホイールナットの点検や増し締め作業を承っております。
大型車用のタイヤ交換設備も完備しておりますので、10トン車やトレーラーなどの大型車両もご依頼いただけます。
まずはお気軽にご相談ください。